80年代ファミコンマンガは常軌を逸していた! 〜 ファミっ子たちが夢中になった名作&珍作回想録

※本記事は雑誌「ゲームラボ」等に掲載した記事の再掲載版です。2015年初出時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

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先日お届けした「ファミコントリビア30」に続き、こんどは「ファミコンマンガ」の振り返りをご紹介します。荒唐無稽を地で行く珍作……とオトナになったいま読み返せばそう思うものの、少年時代は夢中になっていた読んでいた名作の数々。同じくレトロゲームライターの冨島宏樹さんに語っていただきました!

かつてファミコンが子どもたちに絶大な人気を誇っていた時代。その人気にあやかろうと、ファミコンをテーマにしたさまざまなマンガが登場する。当時夢中になって読みふけっていたそれらの作品群は、今読み返してみると……トンデモじゃん!

勢いですべてを納得させる

ゲーマーを主人公としたゲームマンガの元祖は、ご存じ『ゲームセンターあらし』。あらしが「炎のコマ」や「エレクトリックサンダー」といった必殺技を駆使し、ゲームを悪用する者たちを次々打ち破っていくというテンプレは、ゲームマンガの後継たるファミコンマンガでも受け継がれた。

例えば『ファミコンロッキー』の主人公・轟勇気の必殺技といえば1秒間にボタンを50連打する「ゲーム拳必殺五十連打」。「高橋名人の16連打でも人間離れしてるのに、50連打とかwwww」なんてツッコミを入れてはいけない。これさえ出れば一瞬でクリア&勝負を決めるほどの高得点を叩き出す必殺っぷりは、よくわからないがとにかくすごいと思わせるだけの迫力とインパクトに満ち溢れていたのだ。どう考えても連打は関係ない『ロードファイター』や『スーパーマリオブラザーズ』まで必殺技で押し通していた気もするが、こまけぇこたぁいいんだよ!

▲ゲーム拳必殺五十連打『ファミコンロッキー』拳法を応用し、両手で1秒間に50連打する、勇気の代表技。派生技も多く、腕が何本にも見えるほど高速で動かす“阿修羅乱れ打ち”や、衝撃波でボタンを連打する“超速衝撃連打(スーパーインパルスアタック)”などもある。(第3巻185ページより引用)

少年向けならではの、努力と友情もファミコンマンガでは外せない要素である。新たな必殺技やゲーム攻略法を編み出すために行う、四方八方から飛んでくるボールを落とすなどの常識を超えた努力。そして熱いファミコン対決を演じた強敵がときに仲間となる友情。それらはファミコン戦士たちも才能だけの人ではないと感じさせ、親近感を抱かせるのに十分なギミックだった。

そんなファミコン戦士たちの前に立ちはだかる相手も、とにかくスケールがデカい。それはもう無駄にデカい。ファミコン全米チャンピオンや、スポーツなど他の分野で道を極めた挑戦者は当たり前。ファミコンで世界征服をたくらむ悪の組織なんてのも、珍しい存在ではなかった。人類の命運を分ける局面さえも、ゲームをクリアできるかどうかが鍵を握っていたのだ。

「ゲームなんて何の役にも立たない」と言われ続けたファミコン少年の読者たちにとって、それは直球ド真ん中のストライクとなる激燃えシチュエーション。今見れば荒唐無稽としか言えないストーリーでも、ファミコンマンガには確かに夢が詰まっていた。

花盛りから滅亡へ作品群の栄枯盛衰

80年代当時、児童マンガ誌のほとんどにファミコンマンガがあったことは、それだけ読者たちのニーズにマッチしていたという証左である。コロコロコミックでは『ファミコンロッキー』に『ファミコン少年団』、兄弟誌の別冊コロコロコミックには『ファミコンキャップ』。対してライバル誌のコミックボンボンでは『ファミコン風雲児』と『ファミ拳リュウ』が2枚看板を張り、新興のわんぱっくコミックは『ファミ魂ウルフ』で追随。ほかにも読み切り作品やファミコンを題材にしたギャグマンガまで含めれば、数え切れないほどにあった。

▲『ファミコン風雲児』のゲームキャラと一体化する技で、ゲームに深く没入するファミコン戦士たちを象徴するものと言える。敵であるシャドウの刺客たちも当たり前のように使っていたので、この世界では基本テクのひとつだったのかもしれない。(第1巻116ページより引用)

しかし90年代に入ると、ハード自体が末期を迎えたファミコンマンガはもちろん、ゲームを超絶テクでクリアするゲーマーが主役となるマンガは、どんどん姿を消していく。家庭用ゲームだけにとどまらず体感ゲームやUFOキャッチャーまで勝負の題材とした『電脳ボーイ』、逆に対象ハードをゲームボーイだけに絞った『ロックンゲームボーイ』や『突撃!ゲームボーイ』、対戦格闘ゲーム人気に乗じた『ゲームウルフ隼人』など90年代前半にも奮戦したゲームマンガはあったが、衰退の流れは止められなかった。

ゲームそのものが長大なストーリーや設定を持ち始めた時代、必要とされたのは作品自体のコミカライズだったのだ。そこにゲーマーを題材にしたマンガが入り込む余地など、もはや残されていなかった。

だが今になって振り返ってみると、ファミコンマンガはまた違った味わいを見せてくれる。かつて本気になって夢中で読みふけっていた当時とは異なるベクトルで、その荒唐無稽さは極上のエンターテインメントになっているのだ。一部の復刻版を除き、入手性は極めて低いファミコンマンガ。かつて高橋名人と並ぶヒーローとして存在したファミコン戦士たちの物語を、ここで再び思い返してみてほしい。

ファミコンロッキー(あさいもとゆき)|月刊コロコロコミック連載

ご存じ、ファミコンマンガの金字塔。高橋名人を軽く超える50連打などの“ゲーム拳”を使う、轟勇気の活躍はまさしくヒーローのそれだった。正直、今見るとゲームの描写はトンデモそのもの。24周するとシルビアが襲ってくる『スパルタンX』や、音速を超える『F1レース』、ハットリ君が巨大化して高得点を叩き出す『忍者ハットリくん』など、ウソ技のないゲームを見つける方が難しい。しかし当時、「自分にできなくても、ロッキーならそれぐらいできて当然」と納得させる、有無を言わせぬ存在感が確かにあった。これこそ、ファミコンマンガが持つ“熱”だったのだ。

ストーリーに目を向けると、意外なことに本作には一貫した敵組織などは存在しない。悪く言えば場当たり的だが、次はどんな個性的なファミコン戦士がロッキーの前に立ち塞がるのか、それは扱われるタイトルとともに、毎回の楽しみだった。それだけに最後の最後で行われた、友人であり最大のライバル・遊一郎との対決は、通して読むと非常に感慨深い。

ファミコン風雲児(池原しげと)|月刊コミックボンボン連載

「コンボイ」と呼ばれるケン、一馬、卓也の3人の少年たちが、秘密結社シャドウの野望を打ち砕くファミコンマンガ。特筆点はゲームのキャラと一体化する必殺技「ドットチェンジ」である。これのおかげで『ドルアーガの塔』なら本当にケンたちが塔内で実際に冒険しているかのような、迫力あるシーンを描き出すことに成功した。

だが、本作最大の特徴は別にある。それはプログラム改造や、当時まだまだ高嶺の花だったパソコンに関する用語が当たり前のように出てくることだ。第2話にして、コンボイの3人は自分たちが改造した『バンゲリングベイ』でシャドウの刺客と対決をする。それもコンボイが敵側のバンゲリング帝国軍となり、本来の自機であるヘリを操るのはシャドウの刺客……。そう、主人公たちが敵軍となり、たった1機のヘリを落とすハンデ戦が繰り広げられるのだ!

ゲームとしてほぼ別物と化しているが、こんな改造もお手の物なコンボイたちの凄さを示すエピソードとしては、非常にインパクトのあるものだった。

ファミ拳リュウ(ほしの竜一)|月刊コミックボンボン連載

主人公は拳法を応用した“ファミ拳法”の使い手・リュウ。コミックボンボン誌上では左記『ファミコン風雲児』と本作がファミコンマンガの2枚看板だった。

リュウに対するは、例によってファミコンで世界征服をたくらむ組織“蛇の穴”。「仮面ライダー」の改造人間ばりに人間をさまざまな動物と融合させ、その頂点にリュウの体を乗っ取った総帥が君臨する……という未来図を描く“蛇の穴”は、なぜか異様なまでにバイオ部門推し。おかげでマンガの絵ヅラは、いかにも80年代な濃い画風と相まってなかなかにグロかったりする。クモ人間や腕を機械にするなどの人体改造は当たり前。終盤に向かうにつれリュウのクローン人間が大量に出てくるわ、彼らを溶かした巨大な細胞内で最終決戦が行われるわと、オーバーテクノロジー度が加速度的に増していく。

「もうファミコン関係無しに世界征服できるんじゃねぇの!?」と思わずツッコみたくなること請け合い。このハッタリの効きまくった設定こそ、ファミコンマンガの神髄だ。

ファミコン風雲児 対 ファミ拳リュウ(池原しげと/ほしの竜一)|月刊コミックボンボン掲載
その名の通り『ファミコン風雲児』と『ファミ拳リュウ』が夢の対決を繰り広げる。頭脳派のケンと肉体派のリュウ、同じボンボン連載のファミコンマンガでも、対照的な2人が主人公だからこそ実現できた企画と言えよう。誤解の果ての対決あり、最終的には共闘もありと、クロスオーバーものとしては教科書的な展開だが、読んでて盛り上がることは間違いない。

全2巻に収録されているのは4つのエピソード。ファミコンオリンピックや電脳化された街を救う戦い、武器商人の陰謀を砕くストーリーなど、舞台もクロスオーバーにふさわしい大規模なものとなっている。なかには、黒幕が“ネオ=ナチス”を名乗り卍型のマークが出てくるものもあるのだが……何でもありの児童マンガとはいえ、これはOKだったんだろうか。

余談だが、コロコロの看板だった『ファミコンロッキー』にも同様のコンセプトで、ラジコンマンガの『ラジコンボーイ』と共闘する作品があったりする。こちらも夢の対決をしっかり実現した良作だった。

ファミ魂ウルフ(かたおか徹治)|わんぱっくコミック連載

狼に育てられた少年・命知狼(イチロウ)が野生のカンを武器に、数々のファミコン対決に挑む。特に仰々しい必殺技もなく「野生だから」というだけで勝ち進んでいく、命知狼のバトルは勢いだけで突っ切るファミコンマンガの中でも異色作だ。『ボコスカウォーズ』や『ゲイモス』『頭脳戦艦ガル』など、選んだ理由が謎なタイトルでのバトルが多く見られるのもある種の見どころ。掲載誌が徳間書店発行の「わんぱっくコミック」とマイナーだったことを考えると、この二線級のラインナップはピッタリとも言える。

物語はファミコンマンガとしては至ってオーソドックスだが、命知狼を山奥から連れ出した“剛田コンツェルン”の当初の目的が、彼をファミコン部門のマスコットにしてひと儲けする……と妙に生々しい点は他にない。だが、ストーリーが進むにつれ、バイクに乗っての『マッハライダー』対決だの、洞窟内に用意された秘密のファミコン特訓場だの、常軌を逸した方向に傾いていくので安心してほしい(?)。

ファミコンキャップ(小林たつよし)|別冊コロコロコミック連載

主人公の将は、帽子をかぶったファミコン少年。すなわちキャップとは“ファミコンのキャプテン”と“帽子(キャップ)”のダブルミーニングなのだ。彼に対する相手は相手で、マントを身につけた“ファミコン貴族”。この脱力感がたまらない。ちなみにこのファミコン貴族、対決前にキャップにビンタを叩き込み「貴族流決戦のあいさつだ」と言い放つなど、なかなかにエキセントリックなキャラをしている。

ストーリーは、ファミコンマンガとしては小規模。世界征服をたくらむ組織も出てこず、キャップがファミコンソフトをあらゆる手で攻略する姿が主軸となっている。派手な必殺技もなく、決め技はクリアしたソフトを空に投げる“ウイニングカセット”。ここからも地味さが伝わるだろう。とはいえ『マッハライダー』で実際のバイクに乗って特訓したり、『グラディウス』ではヒロインの体内で戦ったり(!?)と、展開はなかなか無茶っぷり。現実的なのかファンタジーなのか、どっちつかずの危ういバランスが独特の味わいを醸し出している。

▲ファミコンマンガは少年読者を意識してか、わりとお色気要素が強かったのも夢中になった要因?(写真は『ファミコンロッキー』第2巻のもの)