自分のPCに「キーロガー」を仕込んだ男 10年分の入力データから判明した「最も押したキー」とは?

※本記事は「mitok[ミトク]」に2015年4月に掲載した記事の再掲載・転載版です。テキスト、画像いずれも初出時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

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現代はライフログ好きたちにとって幸せな時代です。走った距離でも眠った時間でもドキドキした心臓の拍動でも、とにかくなんでも気軽に記録できます。

そんなライフログを楽しんでいる人のひとり、ライターの湯浅氏。自らのPCにキーロガーを導入し、キーの入力記録をとり始めること10年以上。おお……。生涯にわたってとり続ける予定なのだそうですが、今回その中間報告をお願いしてみました。

いったいキーログから何が見えてくるのでしょうか? 多くの現代人が日々使用するキーボードだけに、けっこう興味深い報告となっておりますよ!(編集部)

キーログからぽろぽろ溢れてくる思い出の数々

よく「過去を振り返るな、前を見ろ」というが、筆者の趣味は「過去を振り返ること」である。

「10年前の今日は、こんなことをしていたんだな」「中学生の頃、こんなことを考えていたんだな」ということを振り返るのが、好きでたまらないのだ。

そのために、できるだけ多くの記録をとることにしている。生まれたときから頭にGoProを巻いておいてほしかったくらいだ。実際、ウェブカメラで仕事部屋全体を24時間タイムラプス撮影していたこともある(これは自分の姿が見るに耐えなくて、すぐにやめた)。

そんな筆者だから、「押したキーの数」も記録しておきたくなった。パソコンのキーを押すたびに「どのキーを押したか」を記録し、その数も記録していくということだ。そのためには「キーロガー」というソフトを使えばいいのだが、やりたいと思う人があまりいないのか、良いキーロガーがなかなか見つからなかった。

その中で見つけたのが、『あの頂をめざせ! ぐれいと』(WindVoice氏作)というフリーソフト(以下『頂』)。『頂』の素晴らしいところは、単に記録するだけでなく、さまざまな角度からデータを集計し、表示してくれるということ。

それを10年以上続けてきた。

記録を開始したのは2004年12月23日。そこから現在に至るまでのデータをご覧いただこう。

『あの頂をめざせ! ぐれいと』。累計カウント数に応じてメッセージが表示されるのも楽しい。すでにメッセージが「カンスト」してしまっており、いまでは毎回このメッセージになる。

『頂』によって明らかになった約10年間の統計数値は以下のようになる。

  • キーを押した回数:3,797万3,121回
  • マウスをクリックした回数:404万4,791回
  • マウスポインタの移動距離:583.70816km

この数字を見てもピンと来ないかもしれない。しかし、この数字はさらに細かく見ることで意味を持ってくる。次ページからは、キーログを通じて私という人間の仕事ぶり、生活ぶりと向き合う作業にお付き合いいただければと思う。

まずは最近の「活動分析レポート」を見てみる

『頂』で「分析と出力」を実行すると、分析結果がhtmlファイルとして作成される。それをブラウザで閲覧できるのだ。

IEで分析結果を表示したところ。下部にスクロールさせると、ほかにもさまざまな集計を見ることができる。

むむむ、今週はぜんぜん頑張れなかったなあ(後述のデータと比較)。最多は3月22日の28,250回。3月25日はあと1回キーを押しさえすれば1万回台に乗せられたのに……。こういうのも、普段は数字を意識せずに使っているからこそ起こることではある。

「一生で一番働いた日」はいつか?

次に表示されるのは「キーをたくさん押した日」「押下回数」

筆者の職業は、フリーライター。それも外で取材をするよりは「説明を書く」タイプの仕事がほとんどだ。そのため、「キーを押した回数」は、おおむね「その日の労働量」と考えてよい。つまりキー入力の記録は、自分の労働量の記録でもあるのだ。

その観点から、ランキングを見てみよう。

上位5日と、その回数が表示される。

さすがに上位5日は、先にお見せした最近の押下回数に比べても圧倒的に多い。いずれも10万回超え。いったいその日に、なにがあったのだろうか。

幸い筆者は、冒頭で述べたように「すべてを記録する男」。当日の日記・写真・仕事フォルダー・GPSログその他もろもろに記録を元に、その日の行動を調べてみよう。

第1位:155,011回 2006年5月2日(火曜・友引)

仕事フォルダーを見て思い出した。自分として初めての単行本を書いていたのである。ここでの宣伝は控えるが、あの立花隆氏の「私の読書日記」でも取り上げられた(宣伝はしないが自慢する)。あのときはほんと、頑張ったなあ。

第2位:126,565回 2013年5月5日(日曜・仏滅)

ゴールデンウィーク中なのに、旅行に行っていた。「なのに」という表現に違和感があるかもしれないが、フリーライターは連休前に仕事をいただき、「連休明けに(原稿を)ください」と言われることが多いのである。なのに旅行に行きました。結果、最終日に必死で仕事したのだろう。8月31日の小学生である。

第3位:125,211回 2011年12月30日(金曜・大安)

これは調べなくても覚えていた。年内に終えなければならない仕事を終えられず、予定していた旅行をキャンセルして仕事していたのだった。元旦の年賀状メールに優しく督促が書かれていたのを今でも思い出す。あのときは申し訳ありませんでした。

第4位:115,992回 2005年9月7日(水曜・大安)

本を一冊まるごと作っていた。単行本ではなく、なかば雑誌のような形態のものだったので「著者本」というわけではなかったが、自分の大好きなテーマだったので頑張った。

第5位:113,160回 2014年4月30日(水曜・大安)

この年はゴールデンウィークに旅行に行っている。なので出かける前に仕事を終わらせようと必死で働いたのだろう。それにしても、連休がらみが多いなあ。

1位の回数は突出しているが、2位から4位は12万2,000回前後でそれほど差がない。ということは、自分の1日の限度が約12万2,000回ということなのか。そして2006年5日2日だけ、その限界を超える働きをしたのだろう。

ここで、けっこう重大なことに気づいてしまった。

1位が2006年。自分は9年間、それを超えられていないのだ。もしかして、早くも人生のピークを過ぎてしまったのではないだろうかという不安がよぎる。ここは「出版不況だから」ということにしておきたい(だったらなおさら不安だが)。

渋谷から表参道までマウスポインタを動かした日

マウスポインタをたくさん動かした日と、その距離。こちらも1位だけ突出している。

『頂』では、キーの押下回数だけでなくマウスポインタを動かした距離も記録されている。意外だったのは、上位5日がキーの場合とは異なっているということだ。「たくさん働いた日」という点では同じはずだが、「キーボードをたくさん使う仕事」と「マウスをたくさん使う仕事」は別だからだろう。

ちなみに1位の2013年6月14日(1km586m57cm)は、あるソフトのマニュアルを作る仕事をしていた。このときは、ひたすらソフトを操作して画面写真を撮り、必要な部分を切り抜いたり、注目箇所を枠で囲んだりという作業だった。そのため、キーボードはあまり使わず、マウスは多用したのだろう。

2位の2009年11月26日(1km186m73cm)は、大量の製品の比較テストをしていた。そのため、それぞれの製品についてウェブで調べるため、マウス操作が主体だったのではないだろうか。

ちなみに1位の1.58657kmというのは、マウスポインタを一日で渋谷から表参道まで動かした、ということになる。うーん、そう書いてしまうと、あまりすごくないような? 「渋谷から大宮」とかだったらよかったんだけどなあ。

渋谷駅で、ヒカリエ側のロータリーから出て宮益坂を登り、表参道駅をちょっと越えたあたりまで(ローカルネタで申し訳ない)。※マピオン「キョリ測β」を使用

一番好きなキーはどれだ?

キーごとの押下回数も見てみよう。

押したキーの頻度と、全体に対する割合

「左クリック(LCrick)」が一番多いのは意外だった(669万7,252回、割合8.25%)。キーボードのホームポジションから手を離すのが嫌なので、マウスはなるべく使わないようにしているからだ。しかし画像加工やウェブページの閲覧では多用するし、「ダブルクリック」では1操作で2回押すことを考えると、妥当なのかもしれない。

「LCtrl(左Ctrl)」が多いのは(423万5,649回、割合5.218%)、これもホームポジションから手を離さないために、多くの操作を「Ctrl+英字」で実行しているからだ。余談だが、そのため「CapsLock」キーと「左Ctrl」キーを入れ替えている。他の人は、あの位置のCtrlキーをどうやって押しているんだろうかと不思議に思うほどだ。

軽くショックだったのは、「Enter」キーを多用しているということ(500万7,435回、割合6.168%)。ホームポジションから手を離すことになって効率が悪いので、「Enterキー」の代わりに「Ctrl+M」を使用しているつもりだったのだが……。

改めて意識しながら入力してみると、確かに「改行」のときには「Ctrl+M」を使っているのだが、なぜか「漢字変換の確定」には「Enter」キーを使ってしまっていることがわかった。しかし疲労につながるので、それも「Ctrl+M」を使うように矯正しなければ。

と、このようにキー入力の分析によって、自分のタイピングを見直すこともできるのである。

英字キーに注目すると、母音が上位にくるのは当然として、「N」の多さが目立つ(421万3,445回、割合5.19%)。他の母音を超えるほどの多さだ。これは、筆者がエディターで「↓」(カーソルキー)の操作を「Ctrl+N」に割り当てているためかもしれない。しかし、ことによると単に「な行」の入力頻度が多いだけかもしれないので、他の人のデータがあれば比較したいところだ。

「QWERTY配列」は理にかなっていた

ここで、他のパソコンに別のキーロガーを入れていたことを思い出した。こちらは期間がかなり短いが、参考までに見てみよう。

タイプ数カウンター』(taka氏作)。『頂』ほどではないが、キーボードとマウスの利用状況をさまざまな角度から集計できる。

すると、やはり英字キーの順位は変わらず、「N」が多いことがわかる。ただしこのパソコンもキー割り当ては同じなので、筆者だけの特性なのかどうかはわからない。

「タイプ数カウンター」はキーの使用頻度を濃淡で表わしてくれるが、きちんとホームポジション周辺に集中しているのが興味深い。なにかと批判されることもあるQWERTY配列だが、それなりに理にかなっているといえるだろう。

なお、QWERTY配列に対する批判で多いのは「もともとタイプライター向けに作られたので、パソコン用の配列としてはベストではない」というもの。これは、タイプライターはキーごとにハンマーが動いて刻字するため、よく使うキーのハンマー同士がぶつからないよう、隣り合わないように配置されたという説によるものだ。パソコンではハンマーなど関係ないので、もっと効率のいい配列があるはず、という批判である。

それが正しいのかどうかはともかく、上の画面でキーボード上の濃淡(=頻度)を見てみると、たしかに濃淡がある程度交互に並んでいて、「使用頻度の高いキー同士は隣り合わない」ようになっていることがわかる。

自分の「営業時間と定休日」は?

次に、「キーを押している時間帯」「キーを押している曜日」を見ていこう。いわばフリーライターとしての自分の「営業時間と定休日」ということになる。

意外に、一般的な会社員と同じか?

いちおう、どの時間・どの曜日でも活動していることがわかる。しかし実際には、もっと一日中、何曜日でも変わらず仕事をしていると思っていた。そんなグラフを掲載したあと、「まんべんなく活動しすぎだろ!」というツッコミをするつもりだった。というか、すでにそんな原稿を書いてしまっていた。しかし現実には、意外にも「夜は寝て、朝起きる」「土日は休んでいる」という、きわめて普通の結果になってしまったのである。なんかすみません。

曜日に関しては、おそらく身内や友人が土日休みなので、それに合わせて休むことが多いからだろう。

とはいえ、一般的な会社員が活動を終える夜から深夜にかけての活発さは、皆さんの期待するフリーライター像に合致しているといえるのではないでしょうか。なんでそんな必死に「不規則な生活をするフリーライター」のイメージを維持したいのかわからなくなってきたけど。

結婚しても尖っているか?

まったくの私事で恐縮だが、筆者は最近になって結婚した。その結果、ほとんど仕事場(自宅とは別にある)で寝泊まりする不規則な生活に別れを告げ、仕事場に朝出勤して夜帰宅するという生活が始まったのである。もしかして前項「活動時間」の結果は、それが影響しているのでは?

そこで、データを結婚後だけに絞って集計してみた。

結婚したことが原因だったらしい。

より一般人に近づいちゃってるよ! 明け方ほとんど起きてないし! 土日休んでるし!

なんだか「家庭を持って牙を抜かれてしまった自分」を数値として客観的に見せられた気分だ。いや、「夜更かしして土日も働く」ことが「牙」かっていうと、そうじゃない気もするけど。

ちなみに以下は独身時代に絞ったデータとの比較(左:独身時代、右:結婚後)だ。結婚後と比べると明らかに深夜帯の割合が高めだ。

左が独身時代、右が結婚後の時間帯キーログ

独身時代の曜日別押下回数

記録は早く始めるほど楽しい!

人生のさまざまな記録を残す「ライフログ」が流行しつつある中、ある意味「キーロガー」もそのひとつといえる。そして万歩計や活動量計は「パソコンに向かっておこなう作業の量」は記録できないが、キーロガーならそれが可能なのだ。

キーロガーに限らず、ライフログ全般に言えるのは、「始めるのが早いほど楽しめる」ということ。それだけ多くのデータを集められるからだ。

特にキーロガーは、始めるのに費用はかからないし、スタートアップに登録しておけば毎日起動の操作をする必要もない。いますぐ仕込んでおいて、来年か5年後くらい、忘れたころにアッと思い出してデータを眺めてみる、そんな楽しみ方ができるのである。